イギリスのスターマー首相は記者会見で、合意は両者にとって有益なものであるとしました。その上で、単一市場や関税同盟の再加盟、移動の自由への回帰は行わないといった選挙公約を堅持したと述べました。
農産物に関しては、イギリス・EUの間で衛生植物検疫圏を設置します。輸出衛生証明書(EHC)、植物衛生証明書、有機産品に対する検査証明書、販売基準証明書要件を撤廃し、農産品に関する国境での定期検査を停止します。生ソーセージやイギリス水域で獲られた一部貝類、たねいもなどEUへの輸出が禁止されていたイギリス製品について禁止を解除し、グレートブリテンと北アイルランド間のモノの移送を簡素化するとしています。なお、イギリスの国益にかかわる部分については、例外を設けるためにEUとの交渉を実施します。
エネルギーに関しては、EUの電力取引プラットフォームへの参加を検討するほか、クリーンエネルギー技術における協力を最大化します。EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)による支払いを回避するため、イギリス排出量取引制度(UK ETS)についてEU排出量取引制度(EU ETS)とリンクさせます。
鉄鋼については、イギリスを対象としたEU側の国別割り当てを改善します。
防衛・安全保障・開発の分野では、EUとの間で安全保障・防衛パートナーシップに合意しました。防衛産業におけるより緊密な連携や共同投資に係る枠組みの設置のほか、EUの加盟国向け融資制度である「欧州の安全保障行動における互恵的な協力の可能性を模索します。開発に関しては定期的な対話を実施します。
若者の移動に関し、さらなる協力に合意しました。イギリスがオーストラリアなどと設けている既存のスキームに合わせたものとします。
短期ビジネスを目的とした移動や専門資格の相互認証に関する対話を設置することで合意しました。
合意には、不法移民への対応や法執行における協力、イギリス民によるEU加盟国入国時の自動ゲートの利用などの内容のほか、漁業権についても盛り込まれました。これまでは2026年6月以降は両者の間で相互の水域へのアクセスについて毎年交渉を行うとしていましたが、今回新たに今後12年間の措置に合意し、2038年6月末まで相互の水域へのアクセスを認めるとしました。
スターマー首相によりますと、ヨーロッパにおける不安定な地政学的状況の中で、EUとの経済・安全保障・国防関係を強化することは、イギリスにとって不可欠な任務です。また、安全保障・国防に関する合意は、イギリスが1410億ドル規模のEU防衛基金にアクセスできることに寄与すると評されています。これは、イギリスとヨーロッパの双方にとって重要な戦略的安全保障上の利益であるとしています。